Research Contents


1.研究課題

我々人間や植物を含め,生物は地表面に近い大気から影響を受けていると同時に,大気側にも影響を及ぼしています。乾燥地に見られる干ばつや黄砂発生等の気象現象,そして人為的な砂漠化は,乾燥地における生物の生存基盤に関わる重要な問題となっています。気象学研究室では,「生物と気象」をキーワードに,大気陸面過程や大気境界層における気象現象の観測と物理的な解明を目標に研究を行っています。

(1)乾燥地における熱・水収支の定量的解明
Quantitative analysis of heat and water balances in arid land
(2)気象データと衛星データを併用した地表面モニタリング手法の開発
Development of monitoring method to detect the land surface conditions by combining the meteorological and remote-sensing data
(3)乾燥地や鳥取砂丘における砂移動の観測と物理的解明
Observation and physical understanding on sand movement in arid region and Tottori sand dune

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2.プロジェクト研究

21世紀COEプログラム(文部科学省)平成14〜18年度「乾燥地科学プログラム


「環境計測グループ」のリーダーとして,主として中国黄土高原の半乾燥地河川流域において以下のような研究成果を挙げた。

(1)土地被覆と大気の間でやりとりされる熱エネルギーの定量的解明を目的に土壌3層モデルを開発した。また,5種類の土壌について,土壌水分特性曲線,アルベド,水蒸気の拡散距離を土壌水分量の関数として表現し,検証した。
(2)流域に優占する自然草地の蒸発散量は植生期間では裸地面の1.5倍,年間では1.2倍であること,草地の蒸発散量を支配する要因は主に土壌水分量であることを示した。
(3)(1)で開発された3層モデルおよび黄土高原に存在する43の気象ステーションのデータを用い,黄土高原の熱収支・水収支および土壌水分の空間分布を算出し,その物理的特徴について考察した。さらに,土壌水分量の季節変化から高原全域の乾燥度合を示し,その分布と現存の植生分布を重ね合わせることで,植物分布力の潜在性を求めた。
(4)葉面積指数(LAI)と植物活性(クロロフィル)の変化を分離するため,群落の分光反射特性を用いた指標を提示した。さらに,植物活性と蒸散量の関係が直線的であることを利用し,指標を用いた蒸発散量推定方法を提示した。
(5)(2)における流域の水収支をモニタリングする手法の開発に加え,流域における各土地被覆からの蒸発散量を推定するためのアルゴリズムを開発し,流出量の観測値と併用することで,流域の土地利用を評価した。本研究では,「消費された水分量に対する土壌侵食からの保護力」を水利用効率と定義し,自然草地の水利用効率が他の土地利用と比較してすぐれていることを示した。また,現地におけるインタビューや土壌pH,窒素含量,土壌固結度などの観測からも自然草地の有用性を認めた。
(6)環境修復グループと連携することで,黄土高原における最適な土地利用を水収支,水利用効率という観点から探った。

拠点大学交流事業(日本学術振興会)平成13〜22年度「乾燥地研究分野(中国内陸部の砂漠化防止及び開発利用に関する研究)」

「第1課題」のリーダーとして,以下のような研究成果を挙げた。

砂漠化の過程と影響の解明を大きな柱として,マクロ的に砂漠化(中国黄土高原)を診断する方法,および流域レベル(中国陝西省神木県六道溝流域)で砂漠化を診断する方法そして対策方法を提示した。具体的には,土壌,植生,気象,水資源を含んだ生態学的診断・対策方法の開発であり,次のように要約できる。

診断方法の開発
(1)土壌・・・水分・熱動態モニタリング手法の開発
(2)水資源・・・水文量のモニタリング手法の開発,流域水循環モデルの開発
(3)植生・気象・・・バイオマスや土壌水分,リモートセンシングの手法を用いた砂漠化モニタリング手法の開発

対策方法の開発
(4)現状の流域水収支を評価したうえで,適切な土地利用シナリオを水量,水利用効率という観点から提示することを目標にしている。以下に土地回復の過程案を示す。

裸地 → ヨモギ(自然植生) → アルファルファ(人工植生)→ 檸条(人工植生)→ 沙柳(人工植生)

極相(草本を主体とした潅木が混じる極相)に達するまでには少なくとも30年はかかると考えられる。このような土地回復は比較的平坦な場所での牧畜に対して想定されており,土壌侵食の起こりやすい斜面では自然草本を利用する。アルファルファは乾燥に強くバイオマスが多い。檸条は根系の発達が良く(深度10mまで伸びる),水利用効率も高い。

斜面上部では,侵食による土壌pHの増加,土壌窒素の流出,土壌の硬化などが植生の成長を阻害するため,草本の自然回復は困難である。このような場所では,重点的に人工的な緑化(自然草本を用いて)を施す必要がある。

流域の水の貯留能が高いので,ダム農地への地下貯留が有利である。このような比較的水の集まりやすい低地で畑作を行う。

グローバルCOEプログラム(文部科学省)平成19〜23年度「乾燥地科学拠点の世界展開」

地球環境研究グループ(グループリーダー:篠田雅人)の研究協力者として,ダスト発生地における地表面状態(植物,土壌凍結,積雪,土壌水分など)に関する研究を行った(主な観測対象地はモンゴルのBayan Unjuul)。また,これまでの研究蓄積がある中国の黄土高原や周辺のダスト発生源においてもSYNOP報を用いたダスト発生時の地表面状態に関する定性的な解析や現場観測を行った。

特別経費事業(文部科学省)平成23〜27年度「東アジア砂漠化地域における黄砂発生源対策と人間・環境への影響評価」

黄砂発生メカニズムグループ(グループリーダー:篠田雅人)の研究協力者として,ダスト発生地における地表面状態(植物,土壌凍結,積雪,土壌水分など)に関する研究を行う(主な観測対象地はモンゴルのBayanUnjuulおよびTsogtOvoo)。

3.科学研究費等

(1)2001年〜2003年 奨励研究A:亜熱帯畑地における熱フラックスに関する実証的研究.日本学術振興会.研究代表者:木村玲二
(2)2004年〜2007年 基盤研究B(海外学術調査):黄河流域の農業・牧畜業地域に対する砂漠化ハザードマップ作成.日本学術振興会.研究代表者:松岡延浩
(3)2007年〜2009年 基盤研究B(海外学術調査):ナイル川流域における効率的水利用に関する調査研究.日本学術振興会.研究代表者:服部九二雄
(4)2008年〜2011年 基盤研究B(海外学術調査):黄砂発生源における地表面過程の研究−黄砂抑制政策への反映を目的として−.日本学術振興会.研究代表者:木村玲二
(5)2008年〜2013年 基盤研究A(海外学術調査):干ばつメモリの動態.日本学術振興会.研究代表者:篠田雅人
(6)2009年〜2014年 基盤研究B(海外学術調査):中国西北部乾燥地を対象としたダストストームの抑止技術の検証と危険地域への普及.日本学術振興会.研究代表者:松岡延浩

(7)2009年〜2013年 地球環境変動観測ミッション(GCOM):GCOM-C1/SGLI向け地表面温度推定アルゴリズム開発.JAXA.研究代表者:森山雅雄
(8)2011年〜2013年 地球環境変動観測ミッション(GCOM):複合衛星データと地表面熱収支モデルを用いたAMSR2土壌水分量プロダクトの高解像度化.JAXA.研究代表者:松島大
(9)2012年〜2014年 基盤研究C:日本に到達する黄砂の発生域変動の検証.日本学術振興会.研究代表者:松島大
(10)2012年度 鳥取大学学長経費(若手研究者等の育成):東アジア黄砂発生監視システムの開発.鳥取大学.研究代表者:木村玲二
(11)2013年〜2016年 基盤研究B(海外学術調査):アラブ水稀少社会における共存原理―灌漑耕作慣行を中心に.日本学術振興会.研究代表者:岩崎えり奈
(12)2013年〜2016年 基盤研究B(海外学術調査):東アジア黄砂発生監視システムの開発.日本学術振興会.研究代表者.木村玲二
(13)2013年〜2015年 地球環境変動観測ミッション(GCOM):GCOM陸圏プロダクトとしての蒸発散指数の開発.JAXA.研究代表者:多炭雅博
(14)2013年〜2017年 基盤研究S:乾燥地災害学の体系化.日本学術振興会.研究代表者:篠田雅人
(15)2015年〜2017年 基盤研究C:農地のダスト発生危険度計測システムの開発.日本学術振興会.研究代表者:松岡延浩
(16)2016年度 鳥取大学学長裁量研究推進経費(コア研究の推進):全球砂漠化監視システムの開発.鳥取大学.研究代表者:木村玲二
(17)2017年〜2018年 地球観測研究共同研究:全球砂漠化マップの作成(RA1C127).宇宙航空研究開発機構.研究代表者:木村玲二
(18)2017年〜2019年 基盤研究B(海外学術調査):Air Irrigation:乾燥地の大気由来の未利用水資源で実現する節水農業.日本学術振興会.研究代表者:森牧人
(19)2017年〜2020年 基盤研究A(海外学術調査):北アフリカ乾燥地域における持続可能な地下水利用システムの構築.日本学術振興会.研究代表者:岩崎えり奈
(20)2018年〜2020年 基盤研究C:風食発生の指標となるごく薄い地表面の土壌水分モデルの開発.日本学術振興会.研究代表者:鈴木純
(21)2019年〜2023年度 基盤研究B:乾燥地における土地劣化計測システムとモニタリング手法の開発.日本学術振興会.研究代表者:木村玲二
(22)2019年〜2021年度 地球観測研究共同研究:全球砂漠化マップの作成(ER2GCN122).宇宙航空研究開発機構.研究代表者:木村玲二
(23)2019年〜2021年度 基盤研究C:景観保全活動が天然記念物鳥取砂丘の砂移動および植生分布の変動に与える影響の評価.日本学術振興会.研究代表者:高山成